誰も知らない世界のことわざ
お気に入りの絵本『翻訳できない世界のことば 』の続編、『誰も知らない世界のことわざ』。
世界中のことわざ(正確に言うと、慣用句も入っている)が51語、くすっと笑わせてくれるカラフルなイラストと、トリビア満載の解説とともに収録されている。
英語の原書はこちら『The Illustrated Book of Sayings: Curious Expressions from Around the World』。
万国共通?
まず、おもしろいなと感じたのは、まったく想像もつかないようなことわざが存在する一方で、日本語のことわざと言わんとするところは同じ、と思われるものがけっこうあること。
たとえば、ポルトガル語のことわざ『ロバにスポンジケーキ』。
<画像:amazonの書籍イメージより>
これは、『猫に小判』・『豚に真珠』と同じく、『そのものの価値や本来の扱い方をわかっていない人、それを得るに値しない人に何かを与えることの無意味さ』を表すことわざで、英語で言うなら、"To cast pearls before swine"(豚に真珠)、"Giving caviar to the general"(将校にキャビア)にあたる、と解説されていた。
(将校にキャビアって。。)
それから、オランダ語の『テーブルクロスには小さすぎ、ナプキンには大きすぎる』。これはまさに『帯に短し、たすきに長し』で、中途半端でどうしようもない様子を表現したもの。
それぞれ、登場人物は違えど、同じ教訓が複数の文化圏に存在するというのが、興味深い。
ドイツの論理と死後の世界
一方、発想そのものが新鮮。。というか、ぞくっとしたのが、ドイツ語の『ラディッシュを下から見る』。
ドイツ人のように論理的に考えると、あなたがラディッシュを下から見ているとしたら、「あなたはすでに死んで埋められている」という意味です。
同様の英語表現として、"Pushing up the daisies"(ヒナギクを押し上げる)が挙げられていた。
これらはおそらく、棺を埋葬する文化の発想なのだと思う。
火葬がほとんどの日本で育った自分が、死後、土に埋められるというイメージを思い描いたことがなかったことに気づかされた。
日本語にも『草葉の陰』という表現はあるものの、そこにあるのは魂のような抽象的な存在で、地中に埋められている具体的なイメージではないように思う。
タップダンスをするクマ
ちなみに、ドイツ語にはこんな楽しい表現も。『タップダンスをするクマがパーティー会場にいるよ』。
ふつうクマがおどっているところでは、いろんな楽しいことが起きているはずで、この言い回しは「そこはにぎわっている魅力的な場所だ」という意味です。
このイラストのおどるクマたち、ビールジョッキとプレッツェルを手にしているところが、かわいくておかしい。
日本代表・サルと猫
日本のことわざ・慣用句としては、『サルも木から落ちる』と『猫をかぶる』が出ていた。それぞれ英訳は、
サルも木から落ちる: Even monkeys fall from trees
猫をかぶる: To wear a cat on your head
なお、『猫をかぶる』に相当する英語表現は、"A wolf in sheep's clothing"(羊の皮をかぶったオオカミ)だそう。
解説では、『日本人は、猫となるとちょっと夢中になってしまうようです』として、『猫が茶を吹く』『猫がクルミを回すよう』『猫に傘(からかさ)』『猫も杓子も』等の言葉もあることが紹介されていた。
『猫も杓子も』以外は、日常的にあまり耳にしないような気がするけど(他の3つはいずれも猫のしぐさの滑稽さになぞらえたもの)、言われてみれば確かに、『猫の手も借りたい』とか『猫の額』とか、猫関連の日本語って、けっこう多い。
身近な存在だからこそ、日々の生活の中で、気付きや教訓を与えてくれるということなのだろう。
ご当地の色
そう考えてふたたび、世界各地のことわざを見渡してみると、登場人物やモノに『ご当地感』が色濃く表れていて、おもしろい。
文化的トリビアや、内容と関連する英語表現も出てくるので、学ぶところ多し。
固定観念を取っ払って、頭を空っぽにして絵を眺めるのも楽しいし、言葉の意味と背景をうんと深読みすることもできる、不思議な色合いの絵本だった。
※こういう、一度にたくさんのことをできるお得感を、インドネシア語のことわざでは『泳ぎながら水を飲む』というらしい。
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