大学教育事情(米中日)
NHKラジオ『実践ビジネス英語』で、"Helping College Student"(大学生の卒業支援)と題して、アメリカにおける大学教育と、それに関連した社会問題について取り上げられていた。
とても興味深いテーマなので、他媒体の関連情報とあわせて考えてみる。
負債と卒業証書
現在のアメリカでは、学生ローンの負債総額と、中退率の高さが深刻な問題となっており、
America has a serious dropout crisis. No less than 60 percent of young people go to college these days, but students are up against some unprecedented challenges. More than $1.4 trillion in student loan debt is held by just over 44 million Americans. And did you know that only 55 percent of students graduate in six years?
(アメリカには、中途退学という深刻な危機があります。近ごろは、若者の60パーセントもが大学に進学していますが、学生たちはかつてない難題にいくつか直面しています。4,400万人余りのアメリカ人が学生ローンを抱えていて、その総額が1兆4,000億ドルを超えているのです。それと、知っていましたか、6年以内に卒業するのは、学生の55パーセントにすぎないことを)
そして、中途退学するということは、
Depressing, aren't they? Millions of Americans are taking on thousands of dollars in debt with no diploma to show for it.
(気がめいる数字ですよね。何百万ものアメリカ人が、何千ドルもの負債を抱えていて、しかも、その成果を示す卒業証書がないのですから)
確かに気が滅入る現実だ。
中退の理由としては、経済的理由が多い由。
◆番組テキスト
年間750万円?!
では、アメリカの大学の学費水準は、具体的にどのくらいなのか?
こちらの記事に、一般的な金額と状況が説明されていた。
記事によれば、
トップランキングに入っている大学のウェブサイトを見ると、どの大学も学部の年間の学費が4万ドル(約500万円)以上、生活費込で6万ドル(約750万円)を下らない。トップ校だけではない、100位以内でこの水準以下の私立大学は数えるほどしかないのだ。
こうなるともはや、昔風の『苦学』で克服できる次元ではなさそうだ。
また、奨学金を受けるにしても、悩ましい問題が発生する。
受験生とその親は
・奨学金なしの第1志望に行くか
・奨学金が年間5000ドル受けられる第2志望に行くか
・奨学金で学費の負担がゼロになる第3志望に行くか
を決めなければならないが、可能な限り第1志望に行きたい、行かせたいのは当然である。
そうなると、親が拠出できない学費、生活費分については、学生が夏休みを利用して働くのはもちろんのこと、学生本人が借り入れる連邦政府が提供する学生ローン(連邦学生ローン)、家を担保にして親が組む「home equity loan」、親が保証人となる民間学生ローンと借り入れが有利な順で利用することになる。
しかも恐ろしいことに、アメリカでは
学生ローンを抱えている人が自己破産を宣言しても学生ローンは消滅しない制度になっている
この制度、おかしいよね?
学費高騰の理由
そもそもいったい何故、米国大学の学費はこんなにも高いのか?
日経新聞記事に、その理由として、アジアの富裕層による留学熱があげられていた。
記事によれば、
米国の物価は1980年から現在までに3.4倍上昇したが、その間に米大の学費は11.4倍に高騰した。背景にあるのは、学生を誘致するための「設備投資」と「人件費」の膨張だ。
米大にとって、学費を全額払ってくれる海外留学生は最も優良な顧客だ。全米の大学は、リッチな学生を集めようとキャンパスの充実を競っている。12件のインフラ整備を進めるテキサスA&M大学。看護学部や農業学部の新館、学生部の新しい建物、図書館の改装とプロジェクトは目白押し。建設費などは学費に転嫁している。
こうした誘致合戦はいつまで続き、行きつく先はどこになるのだろう?
人口も競争も桁違いの中国
一方、こちらの本では、中国人留学生側の事情がくわしくリポートされている。
これによると、アメリカの私立大学のいくつかは、事実上、中国人留学生専用のコースを設けているらしい。
それが何を意味するかというと、大学側は経営が潤うけれど、留学生の立場から見れば、同じ学歴の中国人が同じタイミングで大量に就職市場に出ることになり、1つのポストをめぐってすごい競争にさらされることになる。
人口も競争も桁違いの中国で、周りと差をつけるために米国留学したというのに、それでもなお競争から逃れられないなんて、過酷すぎる。。
東大は中国人だらけ?
翻って、日本の大学はどうか。
上記の本『中国人エリートは日本をめざす - なぜ東大は中国人だらけなのか?』によれば、中国をはじめアジアからの留学生を呼び込んでいるという点では同じだけど、日本の大学の場合、その理由と状況がアメリカの大学とは少々異なる模様。
人口減の日本では、有名上位校はブランドを維持(=偏差値の維持)しつつ、経営を成り立たせるために、留学生を必要としている。
経営面での期待もあるとはいえ、アメリカの大学のようなえげつなさはない。
中国人留学生にしてみれば、日本は、競争率、学費、生活の安全面も含めて、相対的に『やさしい世界』と映るようだ。
大学全入時代?
結論として、日本では、アメリカの大学ほど学費が高額ではないし、中国のような熾烈な競争もなくてよかった。。という単純な話ではないような気がする。
この先、少子化によって大学全入時代になると言われるけど、こうして中国人をはじめ優秀な留学生に学力レベルを担ってもらうという流れが続くと、有名上位校はむしろ、日本人学生にとってこれまで以上に難関になるのかもしれない。
となると、上位校とそれ以外との間で二極化が進むのだろうか?
大学無償化の話もあるとはいえ、英語の4技能試験も入ってくるし、受験準備が早期化・長期化するとしたら、結局、『親の受験』(受験科目:経済力、子どもの教育への注力、情報リテラシー、持久力)ということになってしまわないだろうか?
日本の大学教育はこの先、どうなっていくのだろう?
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