夜型人間の受難
NHKラジオ『実践ビジネス英語』の今月後半のテーマは、"Transforming a Night Owl"(夜型人間の改造)。
夜型を自覚する者としては、身につまされる内容だった。
夜型人間を追い詰める英語表現ともに、朝型・夜型についての医学的見解と、個人的所感。
やる気満々の朝型企業 in New York
実践ビジネス英語は、グローバル企業のニューヨークオフィスが舞台になっている。
そこに転職してきたチャック・サルマンズという登場人物がいて、彼が自分は根っからの夜型人間なので、周囲に合わせるのに苦労している、と告白したことから、オフィスでの会話が展開していく。
何しろこの会社、
Just about everybody here at A&A seems to be an early bird. People are bright, cheerful and raring to go first thing in the morning.
(ここA&Aではほとんどの人が早起きのようですね。皆さん、朝早くから明るく元気で、やる気満々です。)
<NHKラジオ 実践ビジネス英語 2017年 12月号 [雑誌] (NHKテキスト)>
- raring to:しきりに~したがって
- first thing in the morning:朝一番に、朝早くから
みんな朝早くから明るく元気で、やる気満々!
夜型は諸悪の根源?
そして、そのやる気満々の同僚やマネージャーたちが、寄ってたかって、夜型人間のチャック・サルマンズにたたみかけてくるのだった。
We're beginning to understand that being an evening type is hazardous to your health. Night owls tend to have poorer diets and drink more alcohol than morning type.
(夜型でいるのは健康によくないということを、私たちは理解し始めています。夜型人間は朝型人間よりも、食生活の質が悪くてアルコールをたくさん飲む傾向があります。)
- hazardous to:~に有害で
夜型は不健康だと決めつけられた上に、
You know, a nocturnal lifestyle can lead to cardiovascular disease, obesity and motor vehicle accidents.
(ご存じのように、夜型のライフスタイルは心疾患や肥満、それに自動車事故を引き起こしかねません。)
- nocturnal [nɑktə́ːrnl]:夜行性の
- cardiovascular [kɑ̀ːrdiouvǽskjulər]:心臓血管の
- obesity [oubíːsəti]:(極端なまたは病的な)肥満
自動車事故まで引き起こすとか、ほとんど悪者扱い。
教育的指導
さらに、これでもかとアドバイスあるいはお説教がつづく。
You might need to get a new alarm clock. I'm not saying that facetiously. If you often sleep through your alarm, you may need a different one.
(あなたは新しい目覚まし時計を買う必要があるかもしれませんね。私はふざけてそう言っているのではありませんよ。たびたび目覚ましの音に気付かずに寝過ごしてしまうのならば、違う目覚まし時計が必要かもしれません。)
- facetiously [fəˈsiːʃəsli]:(発言などが)ふざけて、おどけて
目覚まし時計を買い替えろ、とか、
I don't want to sound preachy, but one thing I've learned is not to linger in bed when my alarm goes off.
(お説教じみたことを言うつもりはありませんが、私が学んだことの1つは、目覚まし時計が鳴ったらベッドでぐずぐずしないことです。)
- linger [líŋgər]:長居する、居残る、ぐずぐずする、手間取る
ぐずぐずするな、とか、
My advice is to set a series of achievable goals aimed at gradually shifting your sleeping routine.
(私からのアドバイスは、睡眠の習慣を徐々に変えることを目指して、達成可能な一連の目標を立てることです。)
『達成可能な一連の目標』って、もはや自己啓発。。
言われっぱなしのチャック・サルマンズが可哀想すぎて、泣けてくる。
正論キャラのリアクション
ちなみにこのチャック・サルマンズ(30歳)、決して自己管理ができないタイプではなく、転職してきてから8カ月間の彼と同僚たちとのやり取りを聞く限り、むしろ非常に堅実な人物で、やたらと正論ばかり言うので、面白味がないとさえ思っていた。
彼の前任者ビル・ニッセンが個性的で味のある人物だったので(参考:実践ビジネス英語の春)、よけいにそう感じたのかもしれない。
けれども今回、夜型人間としての受難を目の当たりにして、チャック・サルマンズにものすごくシンパシーを感じてしまった。
そして、職場で散々、教育的指導を受けた後の、彼の最後のリアクションがよかった。
This is all excellent advice. Let me sleep on it.
(どれも皆、すばらしいアドバイスですね。一晩じっくり考えさせてください。)
- sleep on:(即断・即答を避けて)~について一晩考える
このソツのなさ、見習いたい。
医学的見解
ところで、夜型は本当にそんなに悪いことなのか?
ナショジオ連載の三島和夫氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長)の睡眠研究に関するコラムが面白くて、いつも楽しみにしている。
ひょっとして最悪…「朝型勤務」がダメな理由|ナショジオ|NIKKEI STYLE
睡眠サイクルの朝型夜型って何?|ナショジオ|NIKKEI STYLE
これによれば、成人の約3割は夜型で、体内時計が後方へシフトする力が強いため、朝型生活を送るためにはエンドレスの努力が必要となり、睡眠不足に陥りやすく、むしろ心身の不調を引き起こしかねない。
夜型の人も、年を取ると必要な睡眠時間が短くなるので、早起きが楽になるが、これは厳密な意味で朝型体質になったとは言わない。
『クロノタイプ』(睡眠サイクルの体質)は遺伝的要因が大きいので、それを個性として受け入れ、勤務時間の多様性を認めるべき、とのこと。
なんちゃって朝型
私自身は明らかに夜型で、かつて会社勤めだった頃は、慢性的な睡眠不足だった。
今は自宅が仕事場なので朝寝坊も可能だけど、年のせいか、朝5時に目が覚めるようになったのは、皮肉な話だ。
それでもやはり、物事を深く考えたりするのは、夜の方がうまくいく。
早寝早起きの習慣だとか、気合い云々の問題じゃなくて、夜型人間というのは、元々そういう『仕様』になっているのだと思う。
睡眠博士の言うように、クロノタイプもダイバーシティの一環として受け入れられるようになることを祈りたい。
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