らーめんてーぶる

Lamentable(残念な、ひどい)な英語からの脱却を目指して、地味に奮闘中。NHKラジオ講座、TOEIC、1000時間ヒアリングマラソンの学習記録と感想のブログ

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『ダイエットランド』の原作本がすごくよかった

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もくじ

 

まさかのドラマ打ち切り

amazonプライムビデオで見つけて、シーズン1を一気見してしまったドラマ『ダイエットランド』。

シーズン2が待ちきれず、いつ頃になるんだろう?と情報検索してみたら、あろうことか、シーズン1で打ち切りとなった模様。

何故だ? アメリカで放送された際の視聴率がよくなかった?

今までにないタイプのおもしろいドラマだったのに!

しかも、シーズン1の最終話は「で、この後いったいどうなるの?!」という感じだったので、このまま放置されるなんて辛すぎる。

 

ダイエットランドのあらすじ

今までにないタイプのこのドラマ、いったいどんな話なのかというと、、

 

主人公のプラムはニューヨークに住む、ふくよか体型の30歳前の女性。

仕事は、ティーンエイジャー向け人気雑誌の編集長・キティのゴーストライターで、読者の女の子たちへ返信メッセージを書き続ける日々。

10代の頃に『バプティスト式ダイエット』で辛い挫折を経験したのを皮切りに、長年ダイエットを続けるも効果はなく、胃の縮小手術を受けることを真剣に考えはじめている。

そんなプラムの前に、ある日、リータという謎のゴス系女子が現れる。

リータの導きにより、プラムはバプティスト式ダイエット創始者の娘・ヴェレーナと知り合い、彼女が提案する自己改革プログラムを実践することに。

その頃、『ジェニファー』と名乗るフェミニスト過激派組織が、アメリカとイギリスで過激な犯行を繰り広げ、世間を騒がせ始める。

 

。。というのが、ドラマ・原作共通のストーリーのさわりの部分。

テーマとして扱われているのは、現代の女性が直面している諸問題、ダイエット産業、美容ファッション業界への疑念とアンチテーゼ、等。

こうしたテーマを主人公のプラムがどう体験してどこに向かうのか、そしてフェミニスト過激派の目的と行きつく先はどこなのか?

途中で止められるのは非常に酷なストーリーなのだった。

 

そうだ、原作本を読もう

そこで、ドラマの原作となった小説を読んでみることにした。

今のところ、日本語訳は出ておらず、英語で読みこなせるかちょっと不安だったけど、ストーリーの続きが知りたいという執念が勝った。

 

Dietland: a wickedly funny, feminist revenge fantasy novel of one fat woman’s fight against sexism and the beauty industry (English Edition)

Dietland: a wickedly funny, feminist revenge fantasy novel of one fat woman’s fight against sexism and the beauty industry (English Edition)

  • 作者: Sarai Walker
  • 出版社/メーカー: Atlantic Books
  • 発売日: 2015/12/03
  • メディア: Kindle版
 

 

実際に読み始めてみると、抽象的になってしまいがちなテーマにも関わらず、リアルかつ平易な言葉で語られているので、案外スムーズに、最後までぐいぐい読まされてしまった。

小説の構成は、プラムの視点で彼女の行動と心情をベースに話が進み、要所要所に『ジェニファー』の事件記事が挿入されている。

フェミニズムを大上段に振りかざすような感じではなく、話の流れの中で「あるある」や「とんでもネタ」を繰り出しつつ、読む側の固定観念をもみほぐして、自然と思考実験をうながす作者の力量がすごいと思った。

 

ドラマと原作の違い

ドラマと原作小説で、最も大きな違いは、ドラマではプラムが過激派組織『ジェニファー』の一員になるけれど、原作では間接的に協力することはあるものの、深く関わってはいないという点。

そして、ドラマの中の『ジェニファー』は、一般人の女の子を含む大所帯の組織として描かれている一方、原作では元軍人(米軍、英軍)の女性3人で過激な犯行のほぼすべてを実行している。

勝手な推測だけど、アフガンに派遣された元軍人がテロリストになってしまう、という筋書きは、アメリカのテレビで放送するには問題あり、と判断されたんじゃないだろうか。

とはいえ、物語の要であるフェミニスト過激派組織『ジェニファー』を外すわけにはいかないので、普通の女の子たちによるリベンジという色合いに修正したのだと思う。

実際、この修正によって、ドラマの『ジェニファー』はだいぶマイルドになっているけど、その分、犯行動機やメッセージ性も薄まってしまった感は否めず。

 

その点、原作では3人の元軍人が戦地で経験したこと、人生、家族について、淡々と、でも丁寧に描かれていて、説得力があった。

それから、原作に次のような場面があった。

ジェニファーによる過激な犯行が続き、女の敵としてリストアップされた男性たちは、戦々恐々として「これじゃあまるでテロリズムじゃないか」と言う。

このニュースを報じていた女性キャスターが「でもそれは、女性たちが常日頃経験してることだ。私たちは、悪い男にレイプされたり、虐待されたり、殺されることを恐れている。すべての男性が悪人なわけではないことは知っている。でも、誰がそうなのかわからない以上、女性は常に警戒していなければならない。この状況は、テロリズムではないのか?」とコメントする。

これがたぶん、あえて過激な犯行を描くことで作者が言いたかったことなんじゃないかと思う。

 

リトル・ヒトラーとは?

上述のストーリーの他、映像と小説という手段の違いにより、表現が変わっているところも多く、両方見ることで面白さが増した。

たとえば、プラムがサロンで全身をワックス脱毛するシーン。

ドラマでは、プラムが素っ裸で施術台に四つん這いになり、ワックスをはがされて「あうっ!!」と悶絶する。

この身もふたもない光景と迫力。

女性なら誰でも、多かれ少なかれ、美容やダイエットのために痛い・苦しい思いをした経験があると思う。

そんな自分自身の馬鹿らしくも真剣な経験と重ね合わせて、大笑いしてしまう。

 

一方、原作では、ラテンアメリカ出身と思しきエステティシャンが、デリケートゾーンを脱毛するにあたり、「リトル・ヒトラーにしたいか?」とプラムに訊く。

アンダーヘアの仕上がりの形状として、全面的に脱毛してしまうか、それともヒトラーのちょび髭のように少し残しておくか、ということを確認しているのだった。

ヒトラーが出てきて一瞬ぎょっとするものの、日本人女子の私もリトル・ヒトラーの意味するところを瞬時に理解できたくらいだから、多民族社会でスムーズに意思疎通を図るための現場の知恵なのだろう。

と同時に、美容業界において、このような労働集約的な仕事を外国人労働者が担っているという現実、かといって、最も恥ずかしい部分を人目に晒して痛みに耐えるお客の方が「勝ってる」わけでもない、という滑稽な構図にについて考えさせられた。

ダイエット、美容、ファッション、いずれも根源的な目的は『モテ』、もっと露骨に言えば『生殖』(のチャンスを獲得することにより、自分の遺伝子を残す)なのだろうけど、それが「利益を上げ続けなければならない」という企業の論理と結びつくと、行き過ぎておかしなことになってしまうのだと思う。

 

Who is Jennifer?

作中、フェミニスト過激派組織が名乗っている『ジェニファー』という名前について。

(私もハンドルネームがジェニファーなので、どきっとした)

原作によれば、1970年から1984年の間、アメリカで女の子の新生児に付けられた最も多い名前がジェニファーだったそう。

だから、すべての女性の代表、という意味をこめて組織名にしたのだろうとばかり思っていた。

が、メンバーの一人、ソルダッドが元はメキシコからの移民で、普通の幸せなアメリカの女の子になりたいという願望から、子どもの頃にジェニファーを名乗っていたというエピソードが出てくる。

大人になったソルダッドは、米軍の看護兵としてアフガンに派遣されるのだけど、赴任中に彼女の娘が不幸な目に遭い、13歳で自ら命を絶ってしまう。

結局、『ジェニファー』というのは、ごく普通の存在のはずなのに、ソルダッドにとっては永遠に手の届かない虚像だったということがわかり、しみじみと切なかった。

 

まとめ

  • ダイエットランド』は、ドラマ・原作とも、見て損はない。ドラマと原作本、あわせて鑑賞すれば、さらに味わい深くなる。
  • 原作本の英語はけっこう読みやすい。
  • 既成の価値観を疑い、固定観念をもみほぐしてくれる、こういう作品にもっと出会いたいものだ。

 

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